ふれないで!ふれないで!第1幕第1場の冒頭、森の中で道に迷ったゴローが泉のほとりで泣いているメリザンドを見つけ、近づいて肩にふれようとすると、メリサンドはこう言って拒むのです。
このときの「ふれないで!」は、おびえている娘の、声にならない震える叫びです。
音であって音でない、それはまさに人間の言葉そのものであり、ここから《ペレアスとメリザンド》は始まっています。
この作品の発表時にはさまざまな批判が浴びせられたというが、なかでも、声楽の部分にメロディーがない、という非難は、じつはこの作品の本質をついています。
ドビュッシーは、メーテルランクの『ペレアスとメリザンド』をオペラの題材に選んだ理由として、人間の感受性によって発せられた自然な言葉に触発されたことをあげています。
つまりドビュッシーは、人間の感情をことさらに音楽で飾りたてるのではなく、音楽と人間が発する生の声としての言葉をひとつに融合させることをめざしたのであり、もともとそこにはメロディーなど必要なかったのです。
オペラの新しい形は始まりました。
音楽とも言葉とも定められないもののなかに、メリザンドの不安定な心を聴き、クリストフ・ワイキューブの苦悩を聴き、ペレアスの抑えがたい愛を聴くのです。